互いに理解することは、簡単か難しいか

書く冒険への誘い

互いに理解することは、簡単か難しいか

言葉と私025

僕は同居している相方とよく喧嘩します。本当に些細なことで喧嘩するのです。どんなことで喧嘩するのか、ここに書こうかと思いましたけど、あまりにも些細なことなので書いてもなぜそれが喧嘩に発展するのか理解してもらうのに苦労しそうなのでやめておきます。

だから、僕たちは互いに理解し合うのが難しいと感じてしまいます。だけど不思議なのは、同居する前はよくわかり合っていたと思っていたのです。僕がしようとしていたことを言い当てられたり、相方のしようとしていることを察知して、前もってその準備をしてあげたりしていました。そんな2人だったから同居したのです。

よくわかり合っていたはずの2人が、どうしてわかり合えなくなったのでしょう? 僕はこう思っています。

違いを見つけて楽しんでいる。または、さらに深い理解を求めている。

ふたりがまったく一緒だとつまらないのです。ふたりが別であるために生まれるコミュニケーションややりとりを楽しんでいるのです。効率という点では悪いことのように感じるかもしれませんが、違う意見や感じ方を持つことで、自分ひとりでは持ちようがない可能性を作る機会が生まれるのです。そのための喧嘩というクリエイションが始まるのです。

たとえば僕がコーヒーを飲みたいとしましょう。「コーヒーを淹れるけど飲む?」と相方に聞きます。たいていは「飲む」と返事が来ます。でもときどき違う答えが来ることがある。

「紅茶が飲みたい」

それに対してなんと返事をするか。たいていの場合、僕がコーヒーを飲みたいのでついでに淹れてあげようかというつもりで聞いているので、なぜ「紅茶が飲みたい」なんて答えが返ってくるのか不思議に思うので、その理由を聞きます。

「なんで紅茶なの?」

このときに「なんで僕がコーヒーを飲みたいのに紅茶なんて答えをするんだ」という思いがあると声色に怒りの感情が混ざったりします。だけど、相方の意見は尊重したいと思っているからこそ、「なぜだ」という思いが募ります。相方はそれを敏感に嗅ぎ取ります。

「だったらコーヒーでいい」

そう答えられるとせっかく意に添うように工夫しようと思っていた僕の思いが挫かれてしまうので、さらに腹立たしく思います。僕の内側にあったいくつかの思いを言語化するとこうです。

1.僕はコーヒーを飲みたい。

2.相方の希望は叶えたい。

3.両方作るか?

4.でも、どちらか一方にまとめられるならまとめたい。

5.僕が紅茶を飲むか?

この5つの思いを抱えていたところに、「だったらコーヒーでいい」と言われると、1.は叶いますが、2.3.4.5.の思いが挫かれるので腹が立つのです。そのときにこの5つの選択肢についてきちんと説明できればいいのですが、とっさにそう簡単には説明できません。自分の内側にある思いはすべて言語化されているわけではないのです。この5つの答えの代わりにたいていこんなふうに答えてしまいます。

「僕はなぜ紅茶が飲みたいのか聞いているんだから、『だったらコーヒーでいい』なんてぞんざいな答えではなく、きちんと考えてよ」

こんな答えを少々いらだった雰囲気で伝えると、相手もいらだった雰囲気で「コーヒーでいいんだからコーヒー淹れてよ」というような答えになります。面倒なふたりです。このときに僕はあの5つの選択肢の迷いについて伝え、相方は「余裕があるなら紅茶が飲みたいけど、時間がないならコーヒーでもうれしい」と言ったら、何も問題はありません。あとで冷静になればこうして考えられるのですが、仕事の途中で頭がいっぱいのところに「紅茶が飲みたい」などという答えが返ってくると、このようなわだちに添って行きそうです。自分がいかに自動言語再生マシンかがよくわかります。

つまり、僕は相方と一緒にいることで、自分が自動言語再生マシンであることに直面するのです。相方と一緒にいることでいい修行ができます。おかげさまです。

自動言語再生マシンというのは、あまり考えもせずに言葉を選ぶことを揶揄してこう言っています。

理解は浅い理解から、深い理解までいろいろとあります。浅い理解なら簡単にできますけど、深い理解にはそれなりに時間や手間がかかるでしょう。相手のことを理解するのは大切なことです。でも、自分のことを理解するのはもっと大切かもしれません。

自分のことを理解するためのエクササイズをひとつ紹介いたします。それは自分史を書くことです。第二章で詳しく扱いますが、ここでは簡単に「幼い頃の思い出」について書いてみましょう。

エクササイズ1-13

「幼い頃の思い出」をタイトルとした文章を書いてください。まずは文章のデッサンの方法で書き、その後多少の推敲を加えて完成させなさい。(制限時間なし)

書き終えたら、ずっと下を読んでください。



どんな「幼い頃の思い出」を書いたのでしょうか? きっと思い出はたくさんあります。また何か思い出したら、気が向いたら、書きたいなと思ったら、書いてみて下さい。

思い出を書くことについての詳細は第二章「自分史を書く」に詳しく書いていく予定です。

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